この記事では、14年間ディーラーに勤めた元自動車整備士が一日の仕事の流れをご説明します。
これから自動車整備士になろうと思う方や自動車整備士の一日ってどんなことしているの?と疑問に思われた方に読んでいただきたいと思います。
これが自動車整備士の現実です。
自動車整備士の一日の流れをご説明します
自動車整備士の一日の仕事の流れ(出勤してから退社するまで)を時間配分で表にしました。
時間 | 仕事内容 |
---|---|
~9:00 | 出勤 |
9:00~9:05 | 着替え |
9:05~9:30 | 車両移動・清掃 |
9:30~10:00 | ミーティング |
10:00~12:45 | 整備・修理 |
12:45~13:00 | 休憩 |
13:00~18:00 | 整備・修理 |
18:00~ | 片付け・着替え・退出 |
基本的に整備の仕事は予約制で「作業枠」が設けられています。
それでは、各項目について詳しくご説明します。
出勤と着替えについて
まずは通勤について。
自動車整備士だからといって車通勤やバイク通勤は許可されていませんでした。
自動車に携わっているのだから、車出勤が当たり前だと思われている方も多いかと思いますが、一般的な会社員と同じで電車通勤です。
出勤時の服装はスーツでした。会社に到着すると必ず作業着に着替えるのにラフな格好はNGです。しかし、事務の女性は服装に決まりはなく、私服の通勤でOKという謎なルールが…。
朝のミーティング30分前に会社へ出勤する
先輩に「おはようございます」と挨拶をしても、まともに返事してもらうことは期待してはいけません。
職人気質な人が多い世界なので無視か、せいぜい「お…」くらいの返事しかしてもらえません。朝からやる気がなくなりますね。
その癖、挨拶しなかったら機嫌が悪い。理不尽というか、この業種は後輩に責任を擦り付けるような“とんでもない無責任な奴”が多いです。
出勤してすぐ作業着に着替えます。着替えは5分程度で終わりますが、これから始業時間までにやることがたくさんあります。
それは、「盗難」や「いたずら」防止のために、屋内のショールームや工場で保管することになっている、お預かりしている車の移動です。
毎朝、屋内に停めていた車を外の駐車場へ移動させていきます。車を入れる順番や停める場所に独自のルールがあり、整備預かりの車は奥へとか、新車は手前へなど細かく指示されていました。
全部屋内に入れて帰り、翌朝全部出すのだから順番や場所にこだわっても意味がないだろ…。
と思いますが、配置が気に入らないと先輩は手直しを始めます。一言であらわすと性格の悪い奴が多い。車の移動は時間がかかるため、帰りは無駄なサービス残業になります。
徹底した経費削減・給料が上がるわけない
朝はホウキで掃いたりこぼれたオイルを洗剤で流したりといった、工場の清掃をします。
工場を掃除しつつ、軍手や車両清掃で使うタオルの洗濯は若手が担当していました。他にも、若手は整備で必要な工具や部品の準備をする雑用業務をします。
今でも信じられないことですが、使っていた用具は壊れたものばかりでした。
- 折れたホウキ
- 穴が開いたチリトリ
- 少ない洗剤
- 真っ黒で穴が開いた軍手
「必要なので購入して欲しい」と上司に相談しても、経費削減のために購入してもらえませんでした。
- 壊れた道具で効率よく掃除ができるのか?
- 少ない洗剤で汚れが取れるのか?
- 真っ黒で穴の開いた軍手で手を保護できるのか?
- 第三者(お客さん含め)が見たらどう思うのか?
経費ばかりを考えて上記のようなことは考慮していません。
※実話です
正常な状態のツールを適切に使用することで効率が生まれます。普段から効率に対して口すっぱく言うのに、経費削減だからといって必要な物も購入してもらえないような職場でした。
ホウキや軍手すら買ってもらえない職場で給料が上がるとは思えませんね。
リースのコピー機を使うと印刷代がかかるから「PDFでPCプリンターから印刷せよ」など、とにかく経費についてうるさかったです。非常に効率が悪い。
話が逸れましたが、ここまでがミーティングまでにすることです。
明らかに「開店準備」なのですが、残念なことに勤務時間に含まれていないので、毎日タダ働きからスタートします。
10年ほど前はもっと劣悪な環境で「ミーティング開始1時間前に出勤」して車両移動や清掃活動をしていました。もちろん、手当はなくタダ働きです。
ノルマ優先のミーティング
ミーティングで当日に入庫するお客様や車両について情報の共有をします。
このお客様は過去にクレームがあったとか洗車には細かいとか、車両についてタイヤ溝が少ない、バッテリーが弱っている可能性が高いなど、入庫履歴を見ておすすめできる商品がないかを事前に判断します。
お客様の情報はまだしも、これから実際に車を見て部品交換が必要かを判断をするのに、ミーティングの机上で情報共有することが本当に必要だったのか今でも疑問に思っています。
結局は毎日の売上と利益を確保することしか考えていません。
「ノルマ!ノルマ!ノルマ!」こればかりです。
実際のところ、お客さんが来店しても「ミーティング中だから待ってもらって!」と、すぐに対応せずミーティングを優先していましたからね。意味が分かりません。
重大な整備ミスがそのうち発生する
整備士の仕事で一日の大半は定期点検と車検です。
だいたい一日に1人当たりが7~10台の車を担当します。タイミングベルト交換など、時間のかかる作業が入っている場合は丸一日その作業にかかりきりという日もあります。
その他に、洗車やオイル交換などの軽作業。変な音がする、警告灯が点灯したなどの故障診断。リコールや新車のオプション付け作業があります。
良くないのが、1台にかかる作業時間に対して確保されている時間が圧倒的に少なかったこと。
そのため、少しでも時間短縮できるように常に走り回っていました。追加整備や説明でお客様と話をしている時間が長くなると、次の整備の時間が短くなっていきます。
遅延していく場合は、他の整備士にフォローをしてもらわなくてはなりません。依頼されるとAの車を点検しながら、Bの車をオイル交換するような「同時作業」が日常茶飯事となります。
この掛け持ち状態って危険なんですよね。
焦っている状態で2台同時作業なんかしていたら、「A車のボルトを締めたかな?」など、そのうち重大なミスが発生すると思います。
整備作業ミスは誰にでも起こり得ることです。事例が少ないですが、国土交通省のサイトで事例が掲載されています。興味があれば読んでみてください。
参考:国土交通省 点検整備不十分・整備作業ミスに起因する事故
整備士の一日で休憩時間や退出について
一日の中で休憩時間がほぼないのは本当につらい。
休憩時間はないに等しい
休憩時間はほぼありませんでした。具体的には、お昼ご飯にパンを1個食べて終わりといった感じです。
基本的に点検や整備は予約制で30分ごとに予約枠があります。
お客様のご希望時間をお伺いして空いている枠から予約で埋まっていくのですが、予約なしの突発的に来店される方が多く、中にはお昼の休憩時間に来店される方もいます。
突発的に来店されてもお断りするという概念がなかったので休憩時間にもかかわらず、そのままお受けしていました。お客様第一主義であることが整備士の首を絞めつけます。
というよりも、整備士の数が少なすぎて対応しきれていないのです。募集しても申し込みが少なく、退職する者がいるので、どんどん整備士の人数が少なくなっていきました。
それに働き方改革により残業が許されなくなり、営業時間中に作業を完了させなければなりません。予約でいっぱいでも、予定外の作業が増えていくと休憩時間を切り崩して前倒しで整備をしていきます。
ただでさえ時間がないのに負担が増えることによって、時間内に整備が終わらなくなります。整備時間を少しでも確保するために休憩時間を切り崩す日がほとんどでした。
休憩時間に働いたからといって手当てが出るわけでもないですし、別の時間に休憩できることもないです。今日もお昼に休憩ができなかった。ただそれだけです。
片付け・着替え・退出について
ひと昔前は、残業すると手当が出ましたし仕事の合間に休憩できました。退職した時点では、まだ会社にいるのに定時退出でタイムカードに打刻されるというブラックな状態に…。
「早く帰ろう=残業は許さない=残業代は出ない」ということ。
「早く帰ろう」と表向きでは言います。
しかし、定時寸前でも普通に予約を受付けます。その時間から整備を始め、片付けをして定時に帰れるはずがないです。
僕が勤めていた会社では、働き方改革によって「残業時間が減るのはうれしいけれど、手取りが減る」ではなく「休憩時間が減り、残業をしているけど手取りが減る」でした。
まだ作業中なのに退出したことになっているので残業が付かない。すべてが悪循環。
整備士全員で一緒に帰るという風潮も意味もよく分かりませんでした。着替え終わった人から順に帰ればもっと早く帰れるのに先輩・後輩を待つ。毎日15分~30分を無駄にします。
これで、年間休日104日の14年間働いて手取りが20万円以下です。
自動車整備士は新車販売のように「月に何台売った」などの個人成績という概念がありません。評価を得るには上司から気に入られるかどうかが重要です。
気に入られず出世できなければ、ある程度の年次でやりたくもない中古車販売やクリーニングをした作業着の配送業務へ異動させられます。
自動車整備士はブラックな職種に間違いありません。整備士不足になって当たり前なのです。
さいごに
自動車整備士の一日の流れをご説明しました。過酷な状況を少しでも感じていただけたでしょうか。
大手企業の看板が付いたディーラーだからといって、福利厚生が良くしっかりと社員を守っているという訳ではありません。
求人サイトを見ると自動車設計など面白そうな仕事がたくさんあります。月収30万や入社お祝い金、家賃手当てなどの充実した福利厚生、実働時間や休日も待遇が良い会社が多いです。
同じ車関係の仕事でも、ディーラーの自動車整備士を選んだのは失敗だったなとつくづく思います。