全国で自動車による事故が相次いでいます。安全運転を怠った、認知力の低下や判断ミス・操縦ミスなど、原因は様々。
しかし、自動車が機械である以上、運転手の過失ではなく故障により事故が発生したという可能性も少なからず有り得るというお話をこの記事でお伝えしたいです。
カーディーラーで働いていた時に遭遇した自動車の不可解な電気的故障を例に挙げてご説明します。
自動車の電気的な故障は履歴に残らない場合がある
自動車の大部分はコンピューターによる電子制御をしてます。
例えば、ワイヤレスキーの照合、エンジンの状態、操作状況、走行状況など、様々な情報をセンサーで検知して自動的に機械が制御します。
万が一、センサーが故障したりコンピューター自体が異常な状態(故障)になった場合どうなるのか?
通常はエラーとして履歴を残し、出力制限など非常時専用の制御に入ります(深刻なエラーの場合エンジンを停止する場合も)。
しかし、すべての故障が「自動車に故障が生じた」として記録が残らないのです。
つまり、一部の故障(誤検知)は運転手が誤って操作したものだとして記録が残る場合があります。
Dレンジで走行中、勝手にNレンジ(ニュートラル)になる現象
僕が整備士時代に不可解な現象が発生する車がありました。それは「走行中、勝手にNレンジになって失速する」という現象です。
勝手にNレンジになるとすごく危険ですよね。事故を起こしてしまう危険性があるものですから、もちろんお客さんは激怒していました。
走行中、勝手にNレンジになると聞いて「そんなことありえない」「使い方を間違っているだけだろ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
僕も最初は「そんなこと起こり得るのか?シフトレバーに手が当たったとかじゃないのか?」と考えていました。
しかし、車側に電気的な故障が発生していると実際に起こり得る話です。
勝手にシフトチェンジする条件は以下の通り。
- 車種:3代目プリウス(ZVW30)
- 高速道路をDレンジで走行中、勝手にNレンジになって失速する
- メーターに「Nレンジに入っています」の警告表示
- 頻度は毎日1回程度
- NレンジからDレンジに切替えても、すぐNレンジに戻る
- Dにレバーを手で保持しているとDレンジで走行できる
- 運転者:30代後半~40代の男性でバリバリのビジネスマン風
故障診断をしてもエラー履歴なし・再現しない
実際に試走してみてもNレンジにならず、一向に再現できませんでした。診断機で診てもエラーの履歴は何も残っていません。
エラー履歴がないと運転手の操作が原因と考えるのが普通なので、「通常の運転操作ではしないであろう操作」を記録に残す「特殊操作履歴」を診ます。
※例えば、アクセルとブレーキの同時踏みを検出する
特殊操作履歴を確認してみると、「走行中にNレンジに操作した」という履歴が残っていたのです。
僕は「なんだ、やっぱり自分で操作してるのか」と判断し、「運転手が自分でNレンジにしたのだから、それが原因である」との結論に至りました。
故障原因は「お客様の操作方法」であると納得頂くために、診断結果をお客さんに伝えにいくと「絶対にありえない!」と反論されたのです。
毎日1回程度の頻度でこの現象が出るということ、走行中にシフトレバーに触れることは絶対にないということ、を念押しで言われてしまいました。
本当の原因はシフトレバーの電気的な故障だった
さらに色々と調べた結果、本当の原因はシフトレバーの故障であると判明しました。
というのも、最近のシフトレバーは「どこのレンジに入っているか」を電気で検知します。
細かい数値までは覚えていませんが、抵抗を介して「3VならDレンジ」「2.5VならNレンジ」「2VならRレンジ」といった具合です。
経年劣化で抵抗値が大きくなったなど、何らかの原因で出力する電圧が低く検知されてしまい、ちょうどNレンジの電圧になったところで、勝手にシフトチェンジするという不可解な現象が起きていたのです。
※上記商品は今回の故障とは関係がない商品です。
電気式シフトレバーは「電圧でどのシフトに入っているか」を検知する原理で、このようなボタン型のシフトレバーを社外品で販売しているメーカーもあります。
結局のところは電気でシフトポジションを判断しているので、レバーがなくても(触らなくても)シフトチェンジできるのです。
きちんと謝罪し、部品交換から1週間ほど経った頃に「その後、お車の調子はどうですか?」とお客さんに電話で確認したところ「交換後はNレンジに入ることなく快調」とのお返事を頂けました。
危うく「お客さんの操作ミス」で終わらせてしまったところです…。
検索してみると全く同じ症状を訴える内容が見つかる
電子制御の故障はエラー履歴が残らない不可解な現象が起きる可能性がある、といったお話でした。
そしてもう1点、特定の車種は同一の不具合が発生しやすい、ということも知っていただきたいです。
普通にDでブレーキふんで信号待ちしていました。信号が青になったので発信しました。すると次の瞬間、勝手にNになり、車は減速・・・慌ててDにして再発進、しかしすぐにNに・・・パニック・・D方向にシフトを倒したまま進んだら進めました。
シフトをドライブに入れると1秒ぐらいたつと勝手にニュートラルに戻る問題が発生しました。いつもなら、車のエンジンを切ってしばらくすると勝手に直るのですが、今回はこの問題がしつこく続き、時間にして10分ぐらい継続しました。その間、シフトをドライブへ入れて、手で押さえてその位置に固定しながら運転しました。
まったく同じ故障内容ですね。
この記事内容からは、その後どうなったのか不明ですが、走行中に発生する不具合のため改良品やリコールでの早急な対策が必要と考えます。
アクセルペダルの踏み加減も電気信号で見ている
昔の車はアクセルペダルを踏むとエンジンに空気を取り入れる蓋がワイヤーによって引っ張られて開閉していました。
現在は、どれくらいアクセルペダルを踏んだのかを「センサーで感知」して電子制御でスロットルの開閉を行っています。
以下は電子制御スロットルのメリットとデメリットの引用です。
そのことにどのようなメリットがあるかというと、たとえば、ドライバーがラフなアクセルワークを行ったとしても、ギクシャクしないように平均化するような制御が入って、走りを滑らかにしたり、エンジンが効率よく回るようスロットルを制御し、燃費向上させるといったことが挙げられる。
その反面、アクセルを開けても、スロットルが反応するまでタイムラグがあったり、アクセルを床まで踏んでも、(すぐには)フルスロットルにならなかったり、アクセルは一定なのに、スロットル量が勝手に変化したり、ハーフアクセルから少し早く踏んだだけなのに予想以上にスロットルが大きく開いて思った以上に加速しだす、といったこともある。
機械である以上、アクセルペダルの踏み込み加減を誤検知する可能性も捨てきれません。そして、エラー履歴が残らなかったとすると…。
絶対に故障してはいけない航空機ですら毎月のように故障や事故の報道がされています。
身近なところでは、先ほどまで問題なく使えていたスマホやPCのフリーズ。突然挙動がおかしくなって再起動しないと直らないことも多いです。
長年、自動車の診断をしてきた身として言えることは…、どれだけメンテナンスをしても機械に絶対的な安全はなく、人間が体調を崩すように故障は突然やってくるということ。
さいごに
大事に至らない・ニュースにならないだけで、車の故障は毎日どこかで発生しています。
時と場合によりますが、事故の原因は運転手の過失だけではなく、車の電気的な故障が発生していて不可解な現象によるものかもしれないというお話でした。