自動車のリコール(無償修理)が国土交通省に届出されると、すぐに新聞やTVのニュース番組、インターネットのニュースサイトなどで目にすることが最近は多くなりましたね。
不具合の調査・検討をして保安基準に適合しない恐れがある場合は、正常な部品に取り換えるなどの措置、つまりリコールを実施します。
そもそも自動車の不具合をメーカーはどのようにして知るのか?
知るすべの一つに「市場技術速報」があります。今回はディーラーで整備士が作成する「市場技術速報」とは、どういった取り組みなのかをご説明します。
市場技術速報とは?
市場技術速報とは、一言でいうとメーカーに不具合を報告するレポートです。略して「市技報(しぎほう)」と呼ばれています。
報告する内容は?
お客様からのご指摘や整備をしていて気が付いた点をメーカーに報告します。
エンジン関係、シャシ関係、ボデー関係、ナビやパワーウィンドなどの電装関係、なんでも報告できます。
報告することは故障だけではありません。
- 操作しにくい、使いにくい
- 使い方によってはケガをするかも
- 変な音がする
- 耐久性に問題があるのでは?
など
このようなことまで報告をします。
保安基準に適合しなくなる恐れがなく、リコールに該当しなくても品質や使いやすさの向上に役立てられています。
市場技術速報に求められるもの
市場技術速報はパソコンで作成します。作成したものを整備本部へ送信し、添削をしたのちにメーカーへ報告が行きます。
本部の人間やメーカーの人間は実際の車両を見ていないので、詳しく・わかりやすく報告することが重要です。文字だけではなく写真や図解、異音の時には動画を添付します。
そしてなにより報告をするスピードが求められます。
新車として販売されてから1か月以内に不具合を報告するのと、1年以上経ってから報告するのでは大きく“価値”が違ってきます。
対応が遅れると不具合のある状態でずっと出荷し続けることになり、コスト面や信用を大きく損なう可能性があるからです。
- 再現性はあるのか?
- 頻度はどの程度か?
- 何が原因か?
- 早期報告
こういった情報が市場技術速報に求められます。
報告した結果、どうなったのかは分からない
残念ながら、市場技術速報で不具合を報告してもメーカーからの回答はほぼ無いです。
不具合情報として送信したものが今後の品質向上に役立ったのか?新たなアイデアとして貢献できたのか?それは整備士としては知ることができません。
せっかく報告しているのだから、どうなったのか教えて欲しかったですね。
「既知の不具合」だったとか、それは個体差で起こった「偶然の不具合」だったとか。まあ、メーカーとしても守秘するところがあったんだと思います。
ただ優秀なレポートとして評価が良いと個人で表彰されることがあります。
評価が良いレポートは表彰される
スピード、新たな情報、具体的な内容、画像や映像の添付物。こういったレポートの内容で評価が良いと表彰されることがあります。
僕も一度だけ表彰されたことがあります。報告した内容はナビの不具合。具体的な発生状況とデータログを添付して送信しただけです。
データログはブラックボックスになっていて見れないですし見てもきっと分からない(プログラム的な数値)ので、表彰されたことに対して不本意に思いました。
「制御プログラムが悪い!」
なぜ不具合が発生したのか?原因は?なんてことを報告しようにも、「制御プログラムが悪い」としか言いようがなかったですから。
のちにナビのプログラム修正データが発行され、アップデートできるように対策が取られました。
※専用診断機器を繋いでスマホアプリのように更新をします。
ただ、「こういった報告があって製品の品質が向上されていくのだな」と実感しました。
表彰されると記念品が貰える
実は表彰されると記念品がもらえます。
記念品は表彰状とボールペン、カタログギフトがもらえました。ボールペンはお世辞にも高価なものとは言えず、100均で購入できるレベルです。(申し訳ない程度の記念ロゴ入り)
カタログギフトは3,000円相当でした。
こちらも特別高価な物が貰えるというわけではなかってですね。一度しか表彰されていないので、評価レベルが存在するのかどうかは分かりません。
一律でこの記念品の内容なのか、もっと良い物をもらえている人がいるのか。メーカーに貢献できても、そんなに期待するほど良い思いをすることはありませんでした。
市場技術速報にはノルマがある
市場技術速報にはまさかのノルマがあります。不具合報告にノルマがあるっておかしいと思いませんか?
ノルマは半期で一人10件。決して多くはないのですが、そんな頻繁に新しい車が壊れることはないし、忙しい業務中に市場技術速報を作成する時間がない。
ノルマ稼ぎにどうでもいいことを報告するのが嫌で一度も半期で10件に到達したことがないです。
メーカーは情報集めに躍起になっているところがあって、この報告制度自体の見直しが必要だと感じます。
さいごに
普段、メーカーがどのように情報を集めているのか?整備士が報告をする「市場技術速報」をご説明しました。
一言でまとめると、メーカーの努力を世に提供し、その後は市場(現場)からフィードバックする仕組みで、鮮度の良い情報を収集しているのです。
結果、より良い製品造りとコストダウン(不具合製品が蔓延しない)に役立てています。
ちなみにユーザーが国土交通省に直接報告する方法もあり、市技報以外でメーカーが不具合を認知することも少なくありません。
こういった取り組みによって、自動車の品質向上や安全性の確保をしています。